メタボを甘く見てはいけないワケ。メタボリックシンドロームの危険性とは
「メタボ」という通称で広く知られているメタボリックシンドロームは、将来において、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気を発症する危険性が高まっている状態です。2019年の国民健康・栄養調査によると、20〜74歳までの男性の28.2%、女性の10.3%にメタボリックシンドロームが強く疑われ、さらに男性の23.8%、女性の7.2%がその予備群とされています(※1)。
このように、男性の2人に1人、女性の6人に1人がメタボか予備軍であり、誰もが注意すべき病態であるといえます。今回は、メタボリックシンドロームの危険性や診断基準、検査方法について詳しく解説します。
目次
メタボリックシンドロームはなぜ危険?
メタボリックシンドロームとは、内臓に脂肪が蓄積されていて、そこに高血糖や高血圧、脂質異常などの動脈硬化の危険因子をあわせもった状態を指します。一つひとつのリスクは軽度でも、それが重なると、生命に関わる病気を引き起こす大きなリスクになります。
メタボリックシンドロームの基盤となるのが、おなかに溜まった過剰な脂肪です。内臓脂肪が過剰に蓄積すると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなり、血糖や血圧が上昇する引き金となります。また、内臓脂肪からは遊離脂肪酸(※2)が放出されるため、血液中の中性脂肪が増加します。脂肪組織からはアディポサイトカイン(※3)と呼ばれるさまざまな生理活性物質が分泌されていますが、内臓脂肪が増えるとアディポサイトカインの分泌に異常が起こり、それによって動脈硬化が進行することも分かっています。このように、内臓脂肪が蓄積しすぎると糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病になりやすくなり、動脈硬化性疾患の発症リスクが高まります。
メタボリックシンドロームでは自覚症状がほとんどないため、ついつい放置してしまいがちです。しかし、何の対策もせずそのままの状態にしていると、動脈硬化が年齢以上に速く進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの命にかかわる病気を引き起こすおそれがあります。気づかぬうちに動脈硬化が進行していたということがないように、まずは健康診断などで自分がメタボリックシンドロームに該当するかしっかり確認することが大切です。
(※2)脂肪組織から血液に放出されてエネルギーとして活用される脂肪分。血液中の遊離脂肪酸が増えすぎると、高脂質症や糖尿病を発症しやすくなる。
(※3)脂肪細胞から分泌される、体内の活動を調整したり活性化したりするホルモンや神経伝達物質の総称。
メタボリックシンドロームの診断基準
メタボリックシンドロームは内臓脂肪の過剰な蓄積があること、加えて脂質異常、血圧高値、高血糖の3項目のうち2項目以上を満たす場合に、メタボリックシンドロームと診断されます。
1.【必須項目】内臓脂肪の蓄積
ウエスト周囲径(へその高さの腹囲)が男性で85cm以上、女性で90cm以上
2.上記1に加え、以下の3項目のうち2項目以上を満たす
①脂質異常
トリグリセライド(中性脂肪)値 ≧150mg/dL かつ/または HDL-C値 <40mg/dL
②血圧高値
収縮期血圧 ≧130mmHg かつ/または 拡張期血圧 ≧85mmHg
③高血糖
空腹時血糖値 ≧110mg/dL
血清脂質、血圧、血糖の値が高いと、それぞれ脂質異常症、高血圧、糖尿病と診断されますが、診断基準に満たない“予備群”であっても、それらの値が高めだとメタボリックシンドロームに該当することがあります。
また、肥満とメタボリックシンドロームは混同されがちですが、肥満は体格指数(BMI)に着目し、BMI≧25が肥満と判定されます。一方メタボリックシンドロームは、BMIではなく内臓脂肪(ウエストの太さ)に着目します。肥満の方はメタボリックシンドロームの可能性も高いといえますが、肥満でなくてもメタボリックシンドロームと診断される人もいるため注意が必要です。
メタボリックシンドロームを予防・改善するには
メタボリックシンドロームの予防・改善のためには、溜まった内臓脂肪を減らす必要があります。まずは、必要以上にエネルギーを摂り過ぎる食生活を改め、できるだけからだを動かすようにすることが大切です。体重にこだわりすぎず、ウエストを細くすることを目標に生活習慣の改善に取り組むとよいでしょう。
メタボリックシンドロームには自覚症状がほとんどないため、定期的に検査を受けて自分のからだの状態を知ることも重要です。職場や地域では40歳以上の人を対象に、メタボリックシンドロームに着目した「特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導」を毎年実施しています。今の健康状態を知り、検査結果を踏まえたアドバイスを受けることができるので、対象となる人は必ず受診するようにしましょう。当クリニックでは、経験を積んだ保健師・管理栄養士が特定保健指導を担当し、継続して取り組めるよう一人ひとりに合わせたサポートを行っています。
特定健診では、血圧測定や血液検査、尿検査などの検査を行いますが、動脈硬化の進行度をより具体的に知りたい場合は、人間ドックなどで精密検査を受けることがおすすめです。命にかかわる動脈硬化性疾患のリスクが高いかどうかを知っておく上でも、精密検査は有用と考えられます。
検査の方法には、首に超音波を当てて頸動脈の厚さやプラークの大きさ、動脈の詰まり具合を調べる頸動脈エコー検査や、手と足の血圧の比較や脈波の伝わり方から動脈硬化の程度を調べる血圧脈波検査、頭や首の血管の形態や詰まり具合を画像で確認する頭部MRI・MRAなどがあります。当クリニックでは、いずれの検査も各種健康診断・人間ドックのオプションとして受診いただけますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
- (※1) 厚生労働省, 令和元年国民健康・栄養調査報告
- (※4)日本肥満学会, 肥満症診療ガイドライン2022
人間ドックコース・料金
当クリニックでは皆さまのご要望に柔軟に対応できるよう、多様なコースをご用意しています。
どのコースを受けたら良いかわからない場合は、お気軽にご相談ください。
記事監修
森山 紀之
医療法人社団進興会 理事長
1973年千葉大学医学部卒。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長を経て、現職。