採血だけで簡単にできる胃がんリスク検査(ABC検査)
皆さんは胃がんリスク層別化検査(ABC検査)という名前を聞いたことはあるでしょうか?
将来、胃がんになるリスクが高いか低いかを評価する検査で、ほんの数mlの採血で行うことが出来ます。
今回は、「胃がんリスク層別化検査(ABC検査)」についてお伝えします。
胃がんになりやすい人と、そうでない人の違い
実は、胃がんになりやすい人と、その可能性がほとんどない人がいるのをご存知ですか?
胃がんの発生にはピロリ菌が深く関わっており、また、ピロリ菌が長く棲みついている胃は粘膜の萎縮(老化)が進み、がんにかかりやすいと言われています。そこで、胃がんリスク層別化検査(ABC検査)では、血液検査でヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無とペプシノゲン値による胃の萎縮度(老化度)の2つを測定し、どのくらい胃がんになりやすい状態にあるかを判定します(胃がんそのものを発見する検査ではありません)。
※ピロリ菌に感染している、萎縮が進んでいる、と判定された方が、除菌治療を受けて、除菌に成功したら、胃がんなど胃の病気になるリスクは3分の1程度に下がりますが、ゼロになるわけではありません。
ピロリ菌とは
主に幼少期に感染し胃の中に棲みついて胃炎を起こす細菌です。胃炎を繰り返すことで胃粘膜を萎縮させ胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんの発生に強く関与します(感染しているからといって必ず胃潰瘍や胃がんが発生するわけではありません)。ピロリ菌感染の有無は、血液検査でピロリ菌抗体を測定することでわかります。 ピロリ菌に感染している場合は陽性(+)として表されます。
ペプシノゲン値とは
ペプシノゲンは消化液の元になるもので、血中濃度を測ることで胃粘膜でのペプシノゲンの産生の程度(老化度)がわかります。血中ペプシノゲン量が少ない場合は胃粘膜が萎縮していることを示します。胃粘膜が萎縮している場合は陽性(+)として表されます。
胃がんリスク分類(ABC分類)
実際の判定方法は以下となります。
A群 | B群 | C群 | D群 | E群 (除菌群) |
|
---|---|---|---|---|---|
ピロリ菌抗体 | − | + | + | − | −/+ |
ペプシノゲン検査 | − | − | + | + | −/+ |
胃粘膜の萎縮 | なし | 軽度 | 進んで いる |
高度 | 改善傾向 |
胃がんのリスク | 低 | → | 高 | 除菌で胃がん発生 リスク1/3に低下 |
|
ピロリ菌除菌 | 不要 | 必要 | 必要 | 他のピロリ菌検査陽性 なら必要 |
除菌成功後なら不要 |
上記、A~E群に判定されたリスクに応じて、内視鏡検査による精密検査をおこない、ピロリ菌の除菌治療や定期的な受診検査を行うことによって、胃がんなどの予防・早期発見・早期治療に繋げる事ができます。
検査結果をもとにそれぞれ対応が必要
では、A~E群で判定された場合は、どのような対応が必要なのか説明します。
A群:健康的な胃粘膜です。胃がん発症リスクは低いと考えられます。(内視鏡検査などの画像検査を受けたことがない方は一度は画像検査を受けることが理想的です)
B群:少し弱った胃粘膜です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気に注意が必要です。胃がん発症リスクもあります。また、ピロリ菌に感染していますので、内視鏡検査をおこない、除菌治療をお勧めします。また異常が見つからなくても定期的に内視鏡検査を受けるようにして下さい。
C群:弱った胃粘膜です。胃がん発症リスクが高いタイプです。ピロリ菌に感染していますので、内視鏡検査をおこない、除菌治療をお勧めします。また、異常が見つからなくても、定期的に内視鏡検査を受けるようにして下さい。
D群:かなり弱った胃粘膜です。胃がん発症リスクが極めて高いタイプです。内視鏡検査と他の方法でのピロリ菌検査を受けてください。また、異常が見つからなくても、定期的に内視鏡検査を受けるようにして下さい。
E群:ピロリ菌除菌治療を受けた方は、E群 (除菌群)となります。除菌治療後も定期的に内視鏡検査を受けるようにして下さい。
実際の費用は? 検査方法は? 所要時間はどれくらい?
では、実際の検査費用はどれくらいなのか、当クリニックを例にお伝えします。
当クリニックは、人間ドックのコースそのものに胃がんリスク層別化検査(ABC検査)が入っている場合と、オプション検査として健康診断などに追加が可能なものと2種用意しており、費用は以下となります。
スタンダードドック(ABC検査コース)
⇒ 当院のスタンダードな人間ドックコースです。基本検査・血液検査・心電図・胸部X線・腹部エコーといった基本の人間ドックの項目にプラスして胃の検査を胃がんリスク層別化検査(ABC検査)で実施します。全体の検査が1.5時間で終了するため、忙しい方にもおすすめです。
オプション検査/胃がんリスク層別化検査(ABC検査)
⇒ 健康診断などのオプションとして追加が可能です。
※胃がんリスク層別化検査(ABC検査)に不適な方としては以下となります。
- ・ピロリ菌除菌治療を受けた方
- ・明らかな上部消化管症状のある人
- ・上部消化管疾患治療中の方
- ・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用中の方
- ・胃切除後の方
- ・腎不全の方
検査方法は、冒頭でもお伝えしたように、ほんの数mlの採血で終了となります。検査時間もほとんどかかりません。結果発送は、約3週間後に人間ドック・健診結果と共に郵送にてお知らせします。
いかがでしたか?胃がん検査と言えば、バリウムや、内視鏡を飲まなければならず、苦手な方や忙しい方は、なかなか気が進まないという人も多かったと思います。そういった方は、まず胃がんリスク層別化検査(ABC検査)を受けてみてはいかがでしょうか。
ただし、胃がんリスク層別化検査(ABC検査)は胃がんの有無を調べているのではなく、あくまで将来的に胃がんになるリスク(胃がんのなりやすさ)の検査なので、現時点の胃がんの有無を調べるのであれば、内視鏡(胃カメラ)検査や胃X線(胃バリウム) 検査をおすすめします。
不安な事、わからないことがありましたら、当クリニックにぜひご相談ください。
記事監修者:
ミッドタウンクリニック名駅 消化器内科 西 祐二
【認定資格】
・日本内科学会 認定内科医、総合内科専門医/・日本消化器病学会 消化器病専門医、指導医、東海支部評議員/・日本消化器内視鏡学会 内視鏡専門医、指導医、東海支部評議員、学術評議員/・日本肝臓学会 肝臓専門医、指導医/・日本消化管学会 胃腸科専門医、胃腸科指導医/・日本胆道学会 認定指導医/・日本がん治療認定医機構 がん治療認定医/・日本膵臓学会 認定指導医