心不全とは?—心不全の原因となる病気と疑うべき症状
日本人の死因の第2位であり、がんと並んで重大な病気である心疾患。心疾患は、心臓に起こる病気の総称のことで、心筋梗塞や狭心症、不整脈など様々な病気がありますが、これらの病気は最終的に「心不全」に至ります。そのため、あらゆる心疾患の中で最も死亡数が多い死因は「心不全」なのです(※1)。
今回は、心不全の原因や症状を中心に、「心不全」について詳しく解説します。
目次
心不全とは、どんな状態?
心不全とは、心臓の構造や機能に何らかの異常が起こり、心臓のポンプ機能が低下して全身に十分な量の血液を送り出せなくなった状態をいいます。心不全というのは病気の名前ではなく、様々な原因によって心臓に負担がかかり、心臓の機能が弱まって最終的に到達する状態(症候群)を指す言葉なのです。
心不全の発症率は高齢になるにつれて高まることから、人口の高齢化に伴って、日本では今後ますます心不全の患者が増加すると予想されています。特に高齢者の心不全は入退院を繰り返すことが多く、退院患者のうち、1年以内の再入院率は27~29%と非常に高くなっています(※2)。また、退院後もQOL(生活の質)が低下したり、介護や社会的な支援が必要になることも少なくありません。
再入院率の高い心不全は医療経済的にも問題となっており、医療制度やインフラが整っている日本であっても、心不全患者1人あたりの年間医療費は約106万円と概算されています(※2)。諸外国と比べると医療費は安価ですが、患者数の増加に伴って医療費負担も膨れ上がると考えられるため、心不全の予防は社会的な課題の1つとも言えます。
心不全の症状と見逃したくない初期サイン
心不全には、「心臓から十分な血液を送り出せなくなる」ものと「血液が心臓に戻ってこなくなり体の中で滞る」ものの2つのタイプがあります。
心臓から十分な血液を送り出せなくなるタイプ(収縮機能不全)
心臓のポンプ機能が弱くなって、血液を十分に送り出せなくなるタイプで、血液が十分に行き渡らず、体が必要とする酸素や栄養が足りなくなって、次のような症状が現れやすくなります。
- 坂道や階段を上がる際に息切れする
- ちょっとしたことで疲れやすくなる
- 腎臓に流れる血液の量が減って、作り出される尿の量が減り、日中の排尿の回数が少なくなる
- 手足が冷たく感じる
- 不眠 など
血液が心臓に戻る機能が弱まるタイプ(拡張機能不全)
心臓から血液は送り出せているが、血液が心臓に戻る力が弱まるタイプ。体の中に血液が滞るので、次のような症状が現れやすくなります。
- むくみ
- 体重の増加
- 夜間の尿量や排尿回数の増加
さらに悪化すると、夜間に咳が出たり、息苦しさで眠れなくなったりすることもあります。こうした症状は体を起こした姿勢だと和らぐのが特徴で、呼吸が苦しくて横になって眠れない「起坐呼吸(きざこきゅう)」の状態まで進行してしまうと、入院が必要です。
また、心不全には、急激に心臓の働きが悪くなる「急性心不全」と、心不全の状態が慢性的に続く「慢性心不全」があります。
「急性心不全」とは?
急性心不全は、心筋梗塞によって広範囲の心筋(心臓の筋肉)が壊死したり、肺炎や風邪などの感染症がきっかけで慢性心不全が急激に悪化したりすることで発症するものを指します。急に息切れや呼吸困難が発症して、緊急入院を要することが多い病態です。急性心不全を発症するきっかけは1つとは限らず、疲労や過度なストレス、塩分の取りすぎ、高血圧の薬の飲み忘れなど、複合的な要因で発症する可能性もあります。
「慢性心不全」とは?
慢性心不全は、高血圧や糖尿病などによる動脈硬化や加齢が原因で心臓病になり、心臓のポンプ機能が低下することで発症するものを指します。急性心不全が治療によって回復し、症状が落ち着いている状態も慢性心不全です。慢性心不全の場合、心臓のポンプ機能はしばらくの間は維持されるので、発症初期は自覚症状を感じにくいことがあります。特に高齢者の場合は症状がはっきり現れないことも多く、症状に気づいても「年だから」と放置してしまいがちです。ただ、いくら年齢を重ねても急に体力がなくなることはないので、「少し前までできていたことができなくなった」と感じたら、心不全のサインかもしれないと疑うことが大切です。思い当たる理由がないのに、足の甲やすねの辺りがむくんだり、短期間で体重が増えたりした場合も、早めに医師に相談するようにしましょう。
心不全の原因となる病気には、どんなものがある?
急性心不全も慢性心不全も、多くの場合、その発端は高血圧などの「生活習慣病」です。心不全は適切な治療によって症状を改善させることはできるものの、完全に治すことはできないため、その原因となる病気を予防することが何より重要です。心不全の原因となる病気には、心筋梗塞や狭心症、弁膜(べんまく)症、心筋症、不整脈などの心臓の病気や、高血圧や糖尿病などの動脈硬化を引き起こす全身性の病気があります。そのほかに、抗がん剤や免疫抑制剤、抗うつ薬、抗不整脈薬などの薬の副作用で心不全が起こることもあります。
心不全の原因となる心臓の病気
病名 | 特徴 |
---|---|
心筋梗塞・狭心症 | ・心筋梗塞とは、心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を送る冠動脈の動脈硬化が進行し、血栓(血の塊)などによって塞がることで血流が途絶え、心筋が壊死する病気 ・冠動脈が完全に塞がっていないものの、心筋梗塞に移行する可能性が高い状態は「不安定狭心症」という ・心筋が壊死すると心臓のポンプ機能が低下し、心不全を引き起こすことがある |
弁膜症 | ・心臓にある4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)を隔てる扉として血液の逆流を防いでいる「弁」に異常が起こる病気 ・弁の動きが悪くなったり、閉じなくなったりすると、血流のコントロールがうまくいかなくなって心臓に負担がかかり、心不全を引き起こすことがある |
心筋症 | ・心筋が異常に厚くなったり、薄くなったり、硬くなったりすることで、心臓のポンプ機能が低下する病気 |
心房細動(不整脈) | ・心臓を規則正しいリズムで動かす電気信号が何らかの原因で乱れ、心房の壁が細かく震えた状態になる、不整脈の一種 ・脈が不規則な状態が続くと、心臓のポンプ機能が低下して最終的に心不全に至ることがある |
心不全予備群は、生活習慣改善と定期的な検査を!
がんは治療によって完治する可能性がある病気ですが、心不全は一度発症してしまうと残念ながら完治は望めず、重症化した心不全の予後(病気になったあとの見通し)はがんより悪いとも言われています。心不全は発症させないことが何より重要です。発症した心不全は、急な悪化と回復を繰り返しながら徐々に進行していきます。このときに回復期間が長ければ、重症化や病気の進行を遅らせることが可能なため、この回復期をいかに長く保つかが治療においては重要です。
高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病がある人は、“心不全予備群”と言えます。心筋梗塞や狭心症などの心臓の疾患を発症し、ひいては心不全に向かうリスクが高まるため、それを避けるためにも生活習慣病の予防に積極的に取り組むことが大切です。食生活や運動習慣を見直し、喫煙している場合は禁煙に取り組みましょう。特に高血圧はそれ自体が心不全のリスクなので、塩分の取りすぎに注意し、薬を使いながら適正な値まで血圧を下げることが推奨されています(※2)。
また、心不全予備群の人では、自覚症状がなくても定期的に心臓の検査を受けることも大切です。当クリニックでは、心不全を調べる検査として胸部X線検査や心電図検査に加えて心臓超音波(心エコー)検査などの画像検査があります。
さらに、心不全かどうかを調べるには、心臓から分泌される「脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)」を測定する血液検査も有力な手掛かりになります。BNPとは血管を広げたり尿量を増やしたりして血圧を下げる作用を持つホルモンの一種であり、心臓に負担がかかっている時に、心臓が自らを守るために分泌します。つまり、BNPの値が高ければ心不全の可能性が高いことが分かるわけです。BNPの代わりとして、その副産物である「NT-proBNP」を測定することもあります。当クリニックでは、オプション検査として「NT-proBNP」を調べる血液検査を受けることが可能です。
また、心臓の異常や動脈硬化の進行度合いを調べる検査が組み込まれた人間ドックコースもご用意しておりますので、気になる方はぜひお気軽にお問合せください。
参考文献
- (※1)厚生労働省, 令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況
- (※2)日本循環器学会/日本心不全学会, 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
人間ドックコース・料金

当クリニックでは皆さまのご要望に柔軟に対応できるよう、多様なコースをご用意しています。
どのコースを受けたら良いかわからない場合は、お気軽にご相談ください。

記事監修
森山 紀之
医療法人社団進興会 理事長
1973年千葉大学医学部卒。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長を経て、現職。