家族性高コレステロール血症とは?疑うべき症状と診断基準
血液中のLDLコレステロールが高くなり、若くして心筋梗塞や狭心症を発症する遺伝性の病気「家族性高コレステロール血症」。耳慣れない病気ですが、日本では30万人以上の患者さんがいると推定されており(※1)、決して珍しい病気ではありません。今回は、家族性高コレステロール血症が疑われる症状や早期発見のために重要なことについて詳しく解説します。
目次
家族性高コレステロール血症って、どんな病気?
血液中に存在するコレステロールには、“悪玉”と呼ばれるLDLコレステロールと“善玉”と呼ばれるHDLコレステロールがあります。血液中のLDLコレステロールが基準範囲より高い状態や、HDLコレステロールが基準範囲より低い状態は動脈硬化を進行させる要因になり、これらを総称して「脂質異常症」といいます。
【LDLコレステロール(※2)】単位:mg/dL
異常 | 基準範囲 | 要注意 | 異常 |
---|---|---|---|
59以下 | 60~119 | 120~179 | 180以上 |
【HDLコレステロール(※2)】単位:mg/dL
*将来、脳・心血管疾患発症しうる可能性を考慮した基準範囲
異常 | 要注意 | 基準範囲 |
---|---|---|
29以下 | 30~39 | 40~119 |
コレステロールの値は食事や運動、喫煙などの生活習慣の影響を受けて変動するため、一般的に脂質異常症は生活習慣病の一つとされています。しかし、脂質異常症の中には遺伝が関係するものも存在します。それが「家族性高コレステロール血症」です。家族性高コレステロール血症の患者さんは、生まれつきLDLコレステロール値が高くなりやすく、若いうちから動脈硬化が進んでしまいます。
家族性高コレステロール血症は、コレステロールの代謝に関わる遺伝子の病的な変化を、親から受け継いだことが原因で発症します。遺伝子は両親から1つずつ受け継がれるので遺伝子が2つ存在しますが、どちらか一方の遺伝子に変化がある場合を「ヘテロ接合体」、両方に変化がある場合を「ホモ接合体」といいます。ヘテロ接合体の家族性高コレステロール血症の患者さんは約300人に1人存在するといわれています(※3)。
一方、症状がより重篤なホモ接合体の家族性高コレステロール血症は36万~100万人に1人以上と発生頻度が低く、指定難病の対象となっています。幼い頃から動脈硬化が進行し、小児期から心筋梗塞などの病気を発症するリスクが高いため、できるだけ早い段階に診断を受け、治療を開始することが重要です(※4)。
【家族性高コレステロール血症の遺伝例】
心筋梗塞や狭心症のリスクは10倍以上
LDLコレステロールは、通常、大部分が肝臓で処理されます。しかし、家族性高コレステロール血症の患者さんはLDLコレステロールを肝臓で処理できない、もしくは処理能力が低いため、血液中のLDLコレステロール濃度が高まり、動脈硬化が進んでいきます。
家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体では、健常者に比べてLDLコレステロールの分解能力が半分程度、家族性高コレステロール血症ホモ接合体では、LDLコレステロールがほとんど分解できない状態になります。
その結果、動脈硬化が原因で起こる病気になりやすく、特に心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を発症するリスクが高いといわれています。健康な人と比べ、家族性高コレステロール血症の患者さんが心筋梗塞・狭心症を発症するリスクは10~20倍にも上ります(※1)。
家族性高コレステロール血症と診断される機会がなく、未治療のままでいると、男性では30代から、女性では50代から心筋梗塞や狭心症を発症するようになります(※1)。このような体質は遺伝するため、親やきょうだい、祖父母、子どもなど、血のつながった親族の中にも若くして心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を発症する人が多いこともこの病気の特徴です。
家族性高コレステロール血症の症状と診断基準
一般的に、血中のLDLコレステロール値が高いだけでは自覚症状は現れません。一部の患者さんでは、コレステロールが蓄積することで肘や膝、手首、おしりなどの部位に黄色っぽい隆起(黄色腫)ができたり、アキレス腱の肥厚がみられたりすることがあります。このような症状は10代のうちは軽度で、多くの場合、加齢とともに顕著になっていきます。
家族性高コレステロール血症と診断された患者さんのうち、20~30%は黄色腫が現れない方もいるため、診断をする際には家族歴も含めて確認します。
家族性高コレステロール血症の診断基準(※1)
(1)未治療時のLDLコレステロール値が180mg/dL以上
(2)手首、肘、膝などの黄色腫、アキレス腱の肥厚、皮膚結節性黄色腫がある
(3)血縁者(両親、きょうだい、子ども)に、家族性高コレステロール血症あるいは早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満で発症した心筋梗塞・狭心症)の人がいる
(1)~(3)のうち2項目以上を満たす場合に家族性高コレステロール血症と診断する。2項目以上を満たさない場合でも、LDLコレステロール値が250mg/dL以上の場合や、(2)または(3)を満たしLDLコレステロール値が160mg/dL以上の場合は、家族性高コレステロール血症を強く疑う。
患者数の多いヘテロ接合体の診断では、特にアキレス腱の肥厚が診断の根拠として重要といわれています。アキレス腱の肥厚は視診・触診に加え、X線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査で確認します。
早期発見のためには、定期的な健康診断が重要
家族性高コレステロール血症の場合は、健康な人よりも15~20年早く動脈硬化が進むと考えられており、できるだけ若いうちに診断を受けて治療を始めることが大切です。しかし、LDLコレステロール値が高い以外に症状がない場合、病気が見逃されてしまうことも少なくありません。日本では30万人以上の患者さんがいると推定されていますが(※1)、診断を受けている人はずっと少ないと考えられます。
早期発見するには、定期的に健康診断を受け、血液検査でLDLコレステロール値をチェックすることが重要です。健康的な生活を送っているにもかかわらず、若い時からLDLコレステロール値が高い場合は、家族性高コレステロール血症が疑われるかもしれません。
また、コレステロール値が高い状態が続いていることで、すでに動脈硬化が進行し、狭心症や心不全などの病気を発症している可能性があることにも注意を払う必要があります。早期発見のために、血液検査だけでなく動脈硬化や心臓の病気を調べる検査も受けておくことが大切です。
当クリニックでは、超音波(エコー)検査や血圧脈波検査などの動脈硬化を調べることができる検査を実施しており、健康診断・人間ドックのオプションとして受診いただけます。
家族性高コレステロール血症は家系の中で約50%の確率で遺伝する病気であり、1人が診断を受ければ、家族の中にいる患者さんを発見し、治療につなげられる可能性があります。自分や家族の健康を守るために、「もしかしたら」と思ったら、循環器内科や脂質異常症を専門とする内科の医師に相談することをおすすめします。
参考文献
- (※1)日本動脈硬化学会, 成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022
- (※2)日本人間ドック学会, 人間ドックの検査項目 血液検査
- (※3)日本動脈硬化学会, 家族性高コレステロール血症(FH)とは?
- (※4)難病情報センター, 家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(指定難病79)
人間ドックコース・料金

当クリニックでは皆さまのご要望に柔軟に対応できるよう、多様なコースをご用意しています。
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記事監修
森山 紀之
医療法人社団進興会 理事長
1973年千葉大学医学部卒。
元国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長を経て、現職。